煌めき

ちょっと、暇になるくらい回復したので
書いてみました。


春なので、季節的にも薫さんの御誕生日ものと言いたいんですが

どう考えても北山氏がモデルです。
珍しく主人公に名前がありますが
宜しければどうぞ


薄曇りの空は、気持を鈍感にさせるような気がする。

私は、今焦っているのだろうか?
それとも怯えているのだろうか?

色々な事が新しく入れ替わるこの季節を
ただ、楽しみに喜べる人も居るけれど、私はどちらかと言うと、憂鬱な季節だ。

空が霞み、暖かな日差しの下をすこし冷たい風がゆっくりと通り過ぎて行くのを感じると無性に肌の下がむず痒い気持になる。

さぁ、選べ。

そう、冷静な声が選択を迫っているような感じがするのだ。

選択肢は幾つ私の前に.......いや、私の周りに並んでいるのだろう?
まるで、無限の筋道をもつように、それでも一つを選び踏み出せば行く先は決まっているアミダのように、私の周りをぐるりと囲む蜘蛛の巣が行く先を選択しろと迫っている。




何方が前進で何方が後退になるのかさえわからずに、私は怯えている。


早く早くと、急かす声に、既に踏み出した他人の影に、じっとうずくまって居ては、その蜘蛛の巣に取り込まれてしまうのではないかと、私は焦っている。


「おーい、こっちこっち」


彼が、陸橋の上から手を振っている。
反射的に、手を振り返すとキラキラと逆光に輝く笑顔が眩しい。


近くに走りよって来た彼が不安の影を読み取って、私の顔を覗き込む。

「どうしたの?道に迷ってた?」

「うん、ちょっと」

「大丈夫、もう僕が見つけてあげたから。」

ギュッと手を握られて、なんだか肩の力が抜ける思いがした。
そうだった私は、もう彼を見付けた。

見上げると、彼の前髪と睫毛が光に縁取られて風に揺れている。

「あっ」

一層、強く風がふくと、小さな声と同時に長い左手が風を掴む。
そっと手の中を確かめて満足そうに微笑む彼に見とれてしまう。

「はい」
ゆっくりと目の前で広げられた手の中には薄い桃色の花びらが一枚。

「あげるよ、瑛美の願いを叶えてってお願いしといたから。」

一陣の風がまた、桃色の花びらに彩られて2人の間を吹き抜ける。
何もかもが、淡くぼんやりと取り留めのない風景にそれは煌めく光の破片の様に舞って、見えないけれど、確かにある風を目に映す。


そう、人は何かひとつ確かなモノがあれば、まっすぐ立って居られる。
私にとって彼は正にそれだ。

不安でも大丈夫。
前がわからなくとも大丈夫。
光の欠片は確かに、私の世界にも降り注いでいる。
キラキラと瞬きながら舞うソレは、一筋の軌跡となって私の行く先をそっと後押しする。

大丈夫

彼の声が追い風になる。
私は、スタート地点なんかにいない。道を間違えてなんかいない。
もう、既にたびの途中なんだ。


「ありがとう」

「いえいえ、行こうか」


ゆっくりと少し冷たい風が、彼の前髪をふわっと舞い上がらせる。
不安が肌の下を這う様な錯覚も怖くない。
繋いだ手を握り返す、彼に負けないような笑顔で。