プレゼント

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『おめでとう』


深夜に彼から届いたメールはたったそれだけ。


なんだ、それ。

どうせ、くれるなら

『お誕生日おめでとう』
くらいにすればいいのに。



嬉しいんだか、がっかりなんだか微妙な気分で
『ありがとう』

と、返信する。


すると、今度は通話の着信。

「はーい?」
「起きてたんだ」
「ん、このくらいはだいたい起きてる」
「じゃ、外出て」

彼の言葉にドキッと心が躍る。
まさか、そんな。
キザなこと。

期待しないように、でもやっぱり期待しながら
ドアの覗き穴から外を見ると気配に気付いた彼がニヤリと笑いながら、穴に顔を近づける。

本当に居た。



慌てて、チェーンを外しドアノブを握る。
ドアは少し重くて、その所為なのか足元を見ながらゆっくりと開くと彼の黒いランニングシューズと濡れた廊下が目に入る。

雨の予報だったけれど、ついに降り出したのかぁ…。
全然関係ない感想を抱きつつ、ゆっくりと視線を上げる。
次に私の視界を遮ったのはスプレーフラワー。
小さな花柄が彩りに私の目の前に広がる。


「おめでとう。もっとちゃんとした花が良かったんだけど、こんな時間じゃ花屋自体あいてなくってさ」

申し訳なさそうに、眉をひそめて困ったなと笑う。


「バカ、当たり前じゃない」



「ごめん」


よければ…。
と、何故か妙に控えめに彼が私に花束を勧める。
さっきまでの、余裕綽々の表情はどこへいったんだか。

思わず、吹き出しながら花を受け取る。

「こんな日まで仕事でごめんな」
「何いってんの?ありがとう。」


嬉しくて、抱きつきたいけど今はガマン。


「じゃぁ、また電話するから」
「うん」


彼を見上げると、不意に顔が近づいて唇に温かな柔らかさ。


「さっ…?!」


彼は、ククッと笑って手を振る。

「おやすみ」


顔が熱い。
言葉が出ない。


あぁ、不覚。

たかがこんな事で…。