ラブソング

君は、あの日何も言わなかった。

ただ、俺の言葉に頷くだけで


泣きもせず、ただ黙って頷いた。

「別れて欲しいんだ」


そう、告げると大きな目を更に大きくして、俺の顔を見た。

「ごめん、俺のワガママなんだ」

小さく、息を吸うとそのまま息を呑み込みコクンと首を振る。
少し震えている君の髪を見つめて、涙の抗議を覚悟していたのに
君は、弱々しく笑っていただけだったね。

貰っていた合鍵をキーホルダーから外すカチャカチャという音が2人の間にポロポロとこぼれる様に落ちていく。

鈍色の鍵を彼女の前に置くと、彼女も黙って俺の家の鍵を渡した時につけていたキーホルダーごと俺の前に差し出す。
手を出すと、冷たくなった指先でゆっくりと掌の上に乗せてくれた。

「じゃぁ.....」

君の冷たい指先の感触と一緒に、鍵を握りしめてポケットにねじ込む。

君は、俺に向けていた視線を窓の外に移す。

あの後、君は泣いただろうか。

いつも待ち合わせをしていた店を出る時、振り返ると冬のラブソングが窓の外をずっと見つめている君を慰めているようだった。

喋り出すと止まらなくなるなって、表情がコロコロと変わる可愛い君を僕が君の奥深くに押し込めてしまった。


また、会いたい。
そんな風に思ってしまうなんてなんてワガママなんだろう。


眩しいくらいに笑う本当の君を、誰が助け出すんだろう?

その誰かが俺じゃないコトだけは確かだけれど.....。