月の日


空に明る過ぎる月がぽかんと浮かんでいる。



私の行く道を心配そうに照らし、ずっとついてくる。
大丈夫よ。
私は、ちゃんとした道を行くから。


寄道したり、脇道に入っていったりなんてしない。


ただ、私を待っているであろうあの人の所までまっすぐ歩いて行くだけだから。

見上げてると、月は困った様に雲を睨みつけている。
ゆっくりと、グレーの雲が伸びてきて照りつける光を少しだけ和らげる。

今のうちに

父親の目を盗む様に、私は足早に街路樹の下を小走りに駅へ向かう。
だれも居ない交差点。
うす青い街頭の下で、信号が青になるのを待っていると、慌てて月がまた顔を出す。


デコボコとした、誘導ブロックの傍に小さな水たまり。
その中にまで、まあるい顔がゆらりと揺れている。


大丈夫よ。

私は、ずっとあの人を好きで居るだけだから。
なんにも望んでなんか居ないから。
水たまりを蹴って、月を掻き消したけど、信号が青になって歩き出した私の背中に、戻って来た月が、何か言っている。

そんなに、明るく照らさないで。
私が、あの人を好きなだけなのに。

あの人は、太陽の下では私を待ってなんかくれないんだから。
それを解って、月は太陽のようにキラキラと私の行く道を照らし続ける。



もう、後戻りは出来ない。
もう、戻るつもりなんてない。



きっと
きっと

もっと欲しいって思うでも

絶対に望んだりなんかしないから



今日は
どうか雲に隠れて居て。


私を待つあの人が
誰だかわからないように。


真っ暗な夜を私に与えて。